不妊治療は医療費控除の対象?助成金・高額療養費の差し引き方、通院の交通費、夫婦どちらで申告するか
国税庁の質疑応答事例は、医師による診療等の対価として支払う不妊症の治療費と人工授精の費用を、医療費控除の対象としています。ただし、自治体の不妊治療費助成金や高額療養費は、医療費から差し引いてから計算します。通院の電車代・バス代は対象で、タクシー代や自家用車のガソリン代は対象外です。この記事は、会社に勤めている方が確定申告で医療費控除を受けるときに、国税庁と厚生労働省の原文で確かめられる範囲をまとめました。治療の内容や選び方は扱いません。
対象になるもの・ならないもの
医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までに、自分または生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費が、10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超えたときに受けられる所得控除です。控除額は、実際に支払った医療費の合計から保険金などで補てんされる金額を引き、さらに10万円を引いた額(最高200万円)です(No.1120)。
不妊治療そのものについては、国税庁の質疑応答事例に「不妊症の治療費・人工授精の費用」の項目があり、「医師による診療等の対価として支払われる不妊症の治療費及び人工授精の費用は、医療費控除の対象となります」と回答されています。
| 費用 | 扱い | 国税庁の原文 |
|---|---|---|
| 医師による不妊症の治療費・人工授精の費用 | 対象 | 質疑応答事例 |
| 治療に必要な医薬品の購入費 | 対象 | No.1122 |
| 通院の電車賃・バス賃 | 対象 | No.1122 |
| タクシー代 | 電車・バスが使えない場合を除き対象外 | No.1122 |
| 自家用車のガソリン代・駐車場代 | 対象外 | No.1122、質疑応答事例 |
| 医師等への謝礼金 | 原則含まれない | No.1122 |
| ビタミン剤など、予防・健康増進の医薬品 | 対象外 | No.1122 |
| 体外受精・顕微授精・凍結保存料・自費診療 | 個別の記載を確認できず | ― |
| 自治体の助成金、高額療養費の払い戻し | 医療費から差し引く | No.1120、質疑応答事例 |
出典:国税庁 タックスアンサー No.1120・No.1122(令和8年4月1日現在法令等)、質疑応答事例(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく)、2026年10月2日確認。体外受精・顕微授精・凍結保存料・自費診療は、確認できた国税庁の原文に個別の記載がなかったため、対象とも対象外とも書いていません。
医療費控除を受けるには、領収書から「医療費控除の明細書」を作って確定申告書に添付します。領収書は、確定申告期限等から5年を経過する日まで、提示や提出を求められる場合があります(No.1120)。明細書の書き方は医療費控除の明細書の書き方にまとめています。
保険適用・先進医療・自費の費用の扱い
保険適用になっているもの
不妊治療は、令和4年度診療報酬改定で診療報酬に新しい項目が設けられ、令和4年4月1日から適用されています(診療報酬の算定方法の一部を改正する件、令和4年厚生労働省告示第54号)。厚生労働省の中医協資料(令和4年2月9日)の個別改定項目には、一般不妊治療管理料、人工授精、生殖補助医療管理料、採卵術、体外受精・顕微授精管理料、受精卵・胚培養管理料、胚凍結保存管理料、胚移植術などが挙がっています。生殖補助医療には、年齢や回数の条件が定められています(令和4年度改定時点の資料)。
先進医療と保険適用外の自費
厚生労働省は、先進医療について「先進医療に係る費用は、患者が全額自己負担する」「診察・検査・投薬・入院料など、通常の治療と共通する部分は一般の保険診療と同様に扱われる」と案内しています。同じページの例では、総医療費が100万円で先進医療に係る費用が20万円のとき、20万円は全額自己負担、残りの80万円は保険給付の対象で、3割の24万円が一部負担金になります。
国税庁の原文には、体外受精・顕微授精・凍結保存料・先進医療・自費診療の費用が医療費控除に入るかどうかを個別に挙げた記載を確認できませんでした。No.1122 が挙げる対象の基本は「医師または歯科医師による診療または治療の対価」で、その条件に保険診療かどうかは書かれていません。領収書の項目が診療・治療の対価にあたるかは、税務署の電話相談または確定申告会場で、領収書を見せて確かめてください。
助成金・高額療養費は差し引く
国税庁の質疑応答事例は、地方公共団体が不妊治療の自己負担額に対して支給する不妊治療費助成金について、次のように回答しています。
- 助成金は、所得税の非課税所得として扱われる(所得として申告する必要はない)
- 医療費控除を受けるときは、対象となる医療費の金額から、支給を受ける助成金の額を差し引く
高額療養費も同じ考え方です。No.1120 は、保険金などで補てんされる金額の例として、生命保険契約などで支給される入院費給付金や、健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金を挙げています。厚生労働省の案内では、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えたとき、その超えた額が支給される制度です。
- 差し引くのは、その給付の目的となった医療費が限度です(保険金等の補てん額の扱い)。引ききれない金額が出ても、他の医療費からは差し引きません(No.1120)
- 申告の時点で助成金や保険金の額が決まっていないときは、見込みの額を見積もって差し引きます。あとで確定額が違えば、遡って訂正します(質疑応答事例)
- 国税庁の質疑応答事例は、不正の行為で受けた助成金を返還したケースについて、医療費を補てんする助成金がなくなったことに当たるため、控除を受けた年分の控除額を是正するとしています
助成金の対象、金額、申請の期限は、自治体ごとに違います。住んでいる自治体の案内を確認してください。
通院の交通費
医師等による診療を受けるための通院費は、医療費控除の対象です(No.1122)。内訳は次のとおりです。
- 電車賃・バス賃:対象
- タクシー代:電車やバスなどの公共交通機関が利用できない場合を除き、対象に含まれません
- 自家用車のガソリン代・駐車場代:対象外です。医療費控除の対象になる通院費は、電車賃やバス賃のように、人的役務の提供の対価として支出されるものをいうためです(質疑応答事例)
通院費は、診療を受けるために直接必要で、かつ通常必要なものに限られます。国税庁の質疑応答事例では、遠隔地の病院まで行く旅費について、その病院でなければ治療ができないという相当の理由があれば原則として対象で、近隣の病院でも治療できる場合の旅費は対象外とされています。通院の日付・区間・運賃は、そのつど手元に記録しておくと、明細書を作るときに助かります。
夫婦のどちらで申告するか
医療費控除は、医療費を実際に支払った人が受けます。国税庁の質疑応答事例は、共働きの夫婦で夫が妻の医療費を負担した場合について、夫婦が生計を一にしているなら、実際に支払った夫の医療費控除の対象になると回答しています。配偶者その他の親族に所得があっても、医療費を支払った人と生計を一にしていれば対象です。
- 夫が支払った治療費(妻が受けた治療を含む)は、夫の医療費として申告する
- 妻が支払った治療費は、妻の医療費として申告する
- 10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)の足切りも、戻る税額も、医療費控除を受ける人の所得で決まる
同じ医療費でも、申告する人の年収によって、足切りの額と戻る額が変わります。次の「いくら戻るか」の表で、年収別の違いを確かめられます。
いくら戻るか
助成金や高額療養費を差し引いたあとの医療費が30万円だったときの、年収別の医療費控除額と戻る額の目安です(所得税の還付と住民税の軽減の合計)。
| 申告する人の年収 | 医療費控除額 | 戻る額の目安 |
|---|---|---|
| 300万円 | 20万円 | 3万円 |
| 400万円 | 20万円 | 3万円 |
| 500万円 | 20万円 | 3万円 |
| 600万円 | 20万円 | 4万円 |
| 800万円 | 20万円 | 6.1万円 |
tools の医療費控除計算機と同じ計算です。社会保険料は東京都・40歳未満の標準的な金額で概算し、配偶者控除・扶養控除などその他の所得控除は考慮していません。実際の額は、源泉徴収額や他の控除により変わります。
次は、年収500万円の方が不妊治療などで50万円を支払い、自治体の助成金を受け取ったときの例です。助成金の額が大きいほど、差し引き後の医療費が減り、戻る額も減ります。
| 助成金 | 医療費控除額 | 戻る額の目安 |
|---|---|---|
| なし | 40万円 | 6万円 |
| 10万円 | 30万円 | 4.5万円 |
| 20万円 | 20万円 | 3万円 |
| 30万円 | 10万円 | 1.5万円 |
支払った医療費50万円、年収500万円、その他の保険金等の補てんはなしとして計算しています。
計算例:50万円を支払い、助成金20万円を受けた年収500万円の方
差し引き後の医療費は50万円−20万円=30万円です。足切りの10万円を引いた200,000円が医療費控除額になり、戻る額の目安は所得税と住民税の合計で30,210円です。
年収と医療費を入力して確かめるときは、医療費控除はいくらから戻る?計算ツールを使えます(助成金などの補てん額も入力できます)。
よくある質問
Q. 不妊治療の費用は医療費控除の対象になりますか?
A. 国税庁の質疑応答事例では、医師による診療等の対価として支払われる不妊症の治療費と人工授精の費用は、医療費控除の対象になると回答されています。対象になるのは、その年の1月1日から12月31日までに支払った分で、自分または生計を一にする配偶者その他の親族のために払った医療費です(タックスアンサー No.1120)。
Q. 体外受精・顕微授精・凍結保存料・自費診療の費用は対象ですか?
A. 確認できた国税庁の原文(No.1120・No.1122・質疑応答事例)には、これらの項目を個別に挙げた記載がありませんでした。対象になる医療費の基本は「医師または歯科医師による診療または治療の対価」で(No.1122)、個別の項目が当たるかは、税務署の電話相談または確定申告会場で確かめてください。
Q. 自治体の助成金をもらった場合、医療費控除はどうなりますか?
A. 国税庁の質疑応答事例では、不妊治療費助成金は、医療費控除の計算上、対象となる医療費の金額から差し引くとされています。助成金は非課税所得で、所得として申告する必要はありません。助成金の額が申告の時点で決まっていない場合は、受け取る見込みの額を見積もって差し引き、あとで確定額が違えば遡って訂正します。補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費を限度に差し引きます(No.1120)。
Q. 病院に通う電車代やバス代は対象ですか?タクシー代や車のガソリン代は?
A. 医師等の診療を受けるための通院費は対象で、電車やバスなどの公共交通機関の運賃が当たります。タクシー代は、電車やバスなどが利用できない場合を除き対象に含まれません。自家用車で通院するときのガソリン代や駐車場の料金も対象外です(No.1122、質疑応答事例)。
Q. 夫婦のどちらの医療費として申告しますか?
A. 医療費を実際に支払った人の医療費控除の対象になります。国税庁の質疑応答事例では、夫婦が生計を一にしている場合、共働きでも、夫が妻の医療費を支払ったなら夫の医療費控除の対象となり、親族に所得があってもかまわないとされています。
Q. 高額療養費の払い戻しがあとから入るときは、どうしますか?
A. 高額療養費や健康保険から支給される額は、保険金などで補てんされる金額として、支払った医療費から差し引きます(No.1120)。確定申告の時点で金額が決まっていない場合は見積額を差し引き、あとで確定額が違えば訂正する扱いです(質疑応答事例)。
参考・出典
- 国税庁 - No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月2日確認)
- 国税庁 - No.1122 医療費控除の対象となる医療費(令和8年4月1日現在法令等、2026年10月2日確認)
- 国税庁 質疑応答事例 - 不妊症の治療費・人工授精の費用(令和7年8月1日現在、2026年10月2日確認)
- 国税庁 質疑応答事例 - 地方公共団体が支給する少子化対策のための助成金等の所得税法上の取扱い(令和7年8月1日現在、2026年10月2日確認)
- 国税庁 質疑応答事例 - 共働き夫婦の夫が妻の医療費を負担した場合(令和7年8月1日現在、2026年10月2日確認)
- 国税庁 質疑応答事例 - 自家用車で通院する場合のガソリン代等(令和7年8月1日現在、2026年10月2日確認)
- 国税庁 質疑応答事例 - 医療費を補填する保険金等が未確定の場合(令和7年8月1日現在、2026年10月2日確認)
- 厚生労働省 - 令和4年度診療報酬改定 個別改定項目について(中医協 総-1、令和4年2月9日、2026年10月2日確認)
- 厚生労働省 - 先進医療の概要について(2026年10月2日確認)
- 厚生労働省 - 高額療養費制度を利用される皆さまへ(2026年10月2日確認)
※医療費控除の取扱いは個別の事情により異なります。具体的な申告は税務署または税理士にご確認ください。この記事は、医療の内容や治療の選び方についての情報ではありません。