遺族年金の改正は何が変わる?いつから・誰が対象かを解説
遺族厚生年金の見直しは2028年4月1日に始まります。子のいない配偶者が、男女とも原則5年の有期給付(増額あり)になるのが中心です。すでに受給している方、60歳以降に配偶者を亡くす方、18歳年度末までの子を育てている間の方は変わりません。この記事は、働いて家計を支えている現役世代の方が、万一のときの備えを考える材料として、厚生労働省と日本年金機構の原文にもとづいて整理したものです。
遺族年金の改正で、あなたは変わる?
今回の改正は、令和7年(2025年)6月13日に成立した年金制度改正法(令和7年法律第74号)によるもので、遺族年金に関する部分の施行日は令和10年(2028年)4月1日です。配偶者が2028年4月以降に亡くなったときの、新しく発生する受給権に適用されます。
| あなたの状況 | 改正の影響 | いつから |
|---|---|---|
| すでに遺族厚生年金を受給している | 変わらない | ― |
| 60歳以降に配偶者を亡くす | 変わらない(無期の給付) | ― |
| 18歳年度末までの子がいる | 子が18歳年度末になるまでは現行と同じ。遺族基礎年金の子の加算額は増える | 2028年4月 |
| 子がいない夫(死別時に60歳未満) | 新たに原則5年の有期給付の対象 | 2028年4月以降の死別 |
| 子がいない妻(1989年4月2日以後生まれ) | 原則5年の有期給付(増額あり) | 2028年4月以降の死別 |
| 子がいない妻(1989年4月1日以前生まれ) | 現行どおり(2048年3月までの死別) | ― |
| 夫を亡くした40〜64歳の妻(中高齢寡婦加算) | 受給中の分は変わらない。新たに発生する加算は段階的に縮小 | 2028年4月以降に発生する分 |
出典:厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」、日本年金機構、令和7年法律第74号附則(e-Gov法令検索の厚生年金保険法に収録)。「子」は18歳になった年度の末日まで(障害の状態にあるときは20歳未満)の子です。
妻の線引きが「1989年4月2日以後生まれ」なのは、厚生労働省が「2028年度末(2029年3月31日)時点で40歳未満の女性」と案内している範囲に当たります。法律の附則(第15条)は、施行日から2048年3月31日までの夫の死亡について、死亡時に60歳未満の妻のうち平成元年(1989年)4月2日以後に生まれた人を新ルールの対象と定めています。生年月日で線を引くため、死別する年が遅くなるほど対象の年齢が上がり、20年かけて男性と同じ「60歳未満」になります。
男女差の解消:何がどう変わるのか
今の制度では、子のいない配偶者への遺族厚生年金は、男女で扱いが違います。厚生労働省は、女性の就業率の上昇などに合わせて、この男女差を解消するための見直しだと説明しています。
| 死別時(子がいない場合) | 今の制度 | 改正後(2028年4月〜) |
|---|---|---|
| 妻・30歳未満 | 5年のみ | 5年の有期給付(増額) |
| 妻・30歳以上 | 無期の給付 | 1989年4月2日以後生まれは5年の有期給付(増額)。それ以前の生まれは無期のまま |
| 夫・55歳未満 | 受給できない | 5年の有期給付(増額) |
| 夫・55〜59歳 | 60歳から無期の給付 | 5年の有期給付(増額) |
| 夫婦とも・60歳以上 | 無期の給付 | 現行どおり |
出典:日本年金機構(現行制度)、厚生労働省「遺族厚生年金の見直しに対して寄せられている指摘への考え方」、法律説明資料(詳細版)。
改正後は、死別時に60歳未満の配偶者を「遺族」とする規定になり(厚生年金保険法第59条第2項)、これまで受給できなかった60歳未満の夫も対象に加わります。あわせて、有期給付の収入要件(年収850万円未満)も廃止され、年収850万円以上の方も受け取れるようになります。
5年で終わらない:継続給付と増額
5年の有期給付になる代わりに、厚生労働省は次の配慮を設けたと説明しています。
- 有期給付加算:報酬比例の額の4分の1が上乗せされます(厚生年金保険法第62条)。遺族厚生年金の本来の額は報酬比例の4分の3なので、5年間の額は現在の約1.3倍になります。
- 継続給付:5年が過ぎた後も、障害年金の受給権者や収入が十分でない方は、増額された遺族厚生年金を引き続き受け取れます。単身で就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下なら全額が支給され、収入が増えるほど額は調整されます。遺族厚生年金の額にもよりますが、おおむね月収20万〜30万円を超えると全額が支給停止になります(厚生労働省)。
- 最長は65歳まで:法律上、65歳に達したときや、老齢厚生年金の受給権を取得したときは、この遺族厚生年金の受給権は消滅します(同法第63条第2項)。
- 死亡分割:5年が過ぎた時点以後に請求すると、婚姻期間中の厚生年金の記録を分割できます。亡くなった配偶者の報酬のほうが高かった場合に、自分の老齢厚生年金が増える仕組みです(同法第78条の21の2、厚生労働省)。
つまり「5年で打ち切り」ではなく、「5年は増額された額が出る。その後は、障害の状態や収入に応じて65歳まで続く場合がある」という設計です。
子どもがいる場合
18歳年度末までの子がいる間は、現行制度と同じで、見直しの影響はありません。子が18歳年度末を迎えた後は、さらに5年間、増額された有期給付と継続給付の対象になります(厚生年金保険法第65条、厚生労働省)。
子のいる家庭には、給付が増える部分もあります。
- 子の加算額の引上げ:遺族基礎年金の子の加算額が、2024年度価格で1人目・2人目は年額234,800円から281,700円に、3人目以降は年額78,300円から281,700円になります。2028年4月から、すでに受給している方も対象です(法律説明資料)。
- 子が受け取れる範囲の拡大:子自身の選択によらない事情(親の再婚、配偶者の年収が850万円以上、直系血族の養子になる、元配偶者が子を引き取るなど)で止まっていた子の遺族基礎年金を、受け取れるようにします(2028年4月施行)。
中高齢寡婦加算の見直し
中高齢寡婦加算は、夫を亡くした40歳以上65歳未満の妻などの遺族厚生年金に、65歳になるまで加算される年額635,500円(令和8年度)の上乗せです(日本年金機構)。妻を亡くした夫には同様の加算がないため、男女差を解消する見直しの一部として、縮小することになりました。
- すでに加算を受けている妻と、もともと対象でない妻(40歳未満や65歳以降に死別した妻など)は、影響を受けません。
- 2028年4月の施行以後に新しく発生する加算は、令和35年度まで25年かけて段階的に縮小します。一度受け取り始めた加算の額は、65歳になるまで変わりません(厚生労働省)。
- 法律の附則別表では、加算額に掛ける率が、2028年4月1日までは1.000、同年4月2日から1年間は0.962、その後1年ごとに約0.038ずつ下がり、2053年4月1日までの1年間は0.038です(令和7年法律第74号附則第15条、別表第一)。
金額を知りたいときは
年齢・子の人数・平均標準報酬額から遺族年金の年額を概算するには、遺族年金計算機をお使いください。計算機は現行制度での計算で、2028年4月より前の死別が対象です。
よくある質問
Q. いま受け取っている遺族厚生年金は、5年で終わりますか?
A. 終わりません。厚生労働省は、すでに遺族厚生年金を受給している方は今回の見直しの影響を受けないと案内しています。見直しは2028年4月の施行以後に配偶者が亡くなった場合の新しい受給権が対象です(法律の附則でも、施行日前に支給事由が生じた遺族厚生年金は従前の例によるとされています)。
Q. 60歳を過ぎてから配偶者を亡くした場合は、何が変わりますか?
A. 60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方は、見直しの影響を受けません。厚生労働省の資料では、60歳以上で死別した場合は現行どおり無期の給付です。
Q. 5年たつと、遺族厚生年金は必ず止まりますか?
A. 必ずではありません。5年の有期給付が終わった後も、障害年金の受給権者の方や、収入が十分でない方は、増額された遺族厚生年金を継続して受け取れます(継続給付)。収入に応じて額が調整され、最長で65歳までです。収入が一定の額を超えると、継続給付は全額が支給停止になります。
Q. 子どもがいる場合も、5年で終わりますか?
A. 18歳になった年度の末日までの子がいる間は、現行制度と同じで見直しの影響はありません。子が18歳年度末を迎えた後に、さらに5年間、増額された有期給付と継続給付の対象になります。